腋臭症とは、ワキから特異な悪臭を放つ状態で、「ワキガ」とも呼ばれています。
ワキ汗・ワキガの治療には、保存的治療(制汗剤・内服薬・外用薬・ボトックス注射・イオントフォレーシス)と手術療法(剪除法・皮弁法・超音波メス剪除法など)があります。また保存的治療と手術療法の中間の存在として、マイクロ波を用いた切らない汗治療器「ミラドライ」があります。
汗について
人の皮膚には、汗をつくって皮膚の表面へ送り出す汗腺という管があります。汗腺は皮膚の表面から約1~3㎜の真皮から皮下組織にかけて存在しています。(図参照)
汗腺には、「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」の2種類があります。
【エクリン汗腺】
全身に分布している。主に体温調節のために汗を出す。サラサラとした、臭いを伴わない汗が特徴。
【アポクリン汗腺】
ワキ、乳首、下腹部、耳など限られた場所に分布している。毛根に汗腺の開口部がある。臭いのもととなる脂質やたんぱく質を含み、皮膚表面の常在菌によって分解され、独特な臭いの原因となる。
汗は機能の違いから、下記に分類されます。ワキは、エクリン汗腺とアポクリン汗腺が共存しており、温熱性発汗と精神性発汗が両方起こる特殊な場所です。
【温熱性発汗】
暑いときや運動をしたときに、体温を一定に保つために発汗する。
【精神性発汗】
感情や情動、精神的ストレスなどによって発汗する。
【味覚性発汗】
香辛料がきいた辛い物を食べたときに、味覚の刺激によって反射的に発汗する。
ワキ汗・腋窩多汗症について
ワキに、エクリン汗腺由来の臭いを伴わないサラサラとした汗を多量にかく状態をさします。
ワキは、もともとエクリン汗腺が多いうえに、緊張やストレスなどの精神的な刺激と、気候や運動による温熱刺激の両方で発汗が促進されるため、とくに汗を多くかきやすい場所です。このうち、日常生活をするうえで色々な障害をもたらすほど発汗する方は、腋窩多汗症と診断されます。
日本人の5.8%、530万人以上の方が腋窩多汗症であり、重度の支障を感じている方は250万人以上いると考えられています。
ワキガ・腋臭症について
腋臭症(えきしゅうしょう)とは、ワキから特異な悪臭を放つ状態で、「ワキガ」とも呼ばれています。アポクリン汗腺から分泌される皮脂やタンパク質を多く含む汗が、皮膚表面の常在菌によって分解され、特有の臭いが発生します。
多くは二次性徴が生じる思春期以降に発症し、遺伝的素因や性ホルモンなどが関与するほか、腋毛の量、精神的素因(ストレスや緊張など)、スポーツによる発汗も臭いの発生に関係しています。日本人の10%程度がワキガと考えられています。
治療について
保存的治療(制汗剤・内服薬・外用薬・ボトックス注射・イオントフォレーシス)と手術療法(剪除法・皮弁法・超音波メス剪除法など)があります。保存的治療と手術療法の中間の存在として、マイクロ波を用いた切らない汗治療器「ミラドライ」があります。
それぞれの治療には、以下のような特徴があります。
当院では、内服薬・外用薬・ボトックス注射・ミラドライを行っております。
それぞれの治療の特徴
内服薬 | 外用薬 | ボトックス注射 | イオントレフォーシス | 手術療法 | ミラドライ | |
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方法 | 臭化プロバンテリンを食間に内服 | エクロックゲル・ラピフォートワイプ、塩化アルミニウムを塗布 | ボツリヌス毒素を皮内に注射 | 電気治療 | 剪除法・皮弁法・超音波メス剪除法など | マイクロ波照射 |
効果 | 発汗抑制 | 発汗抑制 | 発汗抑制 | 発汗抑制 | 発汗抑制、ワキガ改善 | 発汗抑制、ワキガ改善 |
持続時間 | 内服後2〜3時間 | 1日1回塗布 | 3〜6ヶ月 | 1日〜数日、効果が実感するまで月単位かかる | 半永久 | 半永久 |
副作用 | のどの渇き、めのかすみ、頭痛、眠気 | のどの渇き、めのかすみ、頭痛、眠気、皮膚のかゆみ | 内出血、つっぱり感、しびれ、筋肉痛など | 基本的になし | 痛み、安静や固定が2〜3週間必要 | 腫れ・痛み:1日〜数日、違和感:数日 など |
傷跡 | なし | なし | なし | なし | あり(〜5cm程度) | なし |
治療時間 | ー | ー | 5分〜10分 | 15分〜20分/日 | 1〜2時間程度 | 通常照射:約60分 広範囲ダブル照射:約2.5時間~3時間 |
保険適用 | あり | あり | あり(重症の場合) | あり | あり | なし |
※左右にスクロールできます。
内服治療
抗コリン薬と漢方薬が使用されています。
唯一保険適応があるのは臭化プロバンテリン(商品名;プロバンサイン)です。その他オキシブチニン(商品名;ポラキス)、コハク酸ソリフェナシン(商品名;ベシケア)などがありますが、効果の程度にはばらつきがあります。また口の渇きや目のかすみ、眠気などの副作用があります。
漢方薬として防已黄耆湯などが使用されることがあります。手掌多汗症の患者様は、発汗に対する恐怖心で情緒不安定になることがあり、自律神経失調症に効果のあるトフィソパム(商品名;グランダキシン)や抗不安薬で抗コリン作用をもつパロキセチン(商品名;パキシル)が有効との報告があり、これらの薬を使用することがあります。
前立腺肥大症や緑内障の方など、薬を使用できない場合があります。
外用療法
塩化アルミニウム(保険適応なし)は液体の塗り薬で、エクリン汗腺にフタをする効果があります。しかし、盛んに汗が出る状態では、塗ったそばから薬液が流れ落ちてしまうため、効果が表れにくくなります。
また、皮膚がかぶれてしまうなどの副作用のために、継続できない方もいらっしゃいます。市販薬も販売されています。
エクロックゲル・ラピフォートワイプは、抗コリン薬の外用薬です。1日1回ワキに塗布します。1週間から10日程度で効果が表れる方が多いです。薬液が目に入ると散瞳してしまうことがあるため、取り扱いに注意が必要です。
内服薬に比べると、副作用は低いとされていますが、口の渇きや目のかすみ、眠気などの副作用がでることがあります。内服薬同様、前立腺肥大症や緑内障の方など、薬を使用できない場合があります。
ボトックス注射
ボツリヌス菌が産生するボツリヌス毒素を、希釈して皮内に注射します。ボツリヌス毒素は、神経終末からのアセチルコリンの放出を抑制して神経伝達を阻害し、主にエクリン汗腺からの汗の分泌を抑制します。
片側20か所程度を皮内注射します。重症の腋窩多汗症(汗が我慢できず、日常生活に支障があるレベル)の場合のみ保険適用となります。
ミラドライ
2018年6月に厚生労働省より薬事承認を取得した医療機器です。
電子レンジと同様のマイクロ波を用いて、汗腺が存在する領域を焼灼・凝固し、発汗を抑制します。治療後も生活の制限がなく、治療直後から発汗量の減少が認められます。
治療1年後でも81.7%の発汗減少が持続していました(研究報告1)。ワキガ・腋臭症では、治療直後から被験者の80%で臭いが気にならなくなり、2年後でも89%の方に効果が持続していました(研究報告1)。
当院では、より治療効果の高い広範囲照射をお勧めしています(詳細はミラドライのサイトをご確認ください)。
※研究報告2
Hong, H. C. H., Lupin, M., & O’Shaughnessy, K. F. Clinical evaluation of a microwave device for treating axillary hyperhidrosis. Dermatologic Surgery , 38(5), 728-735, 2012
料金について
内服薬・外用薬は保険適用となります。ボトックス注射は重症の腋窩多汗症の場合のみ、保険適用となります。
ミラドライは自費診療で行っています(詳細はミラドライのサイトをご確認ください)。